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「へえ、笹なんかよく見つけたね、親父」「うん、町会長さんちにあったんで、一本もらってきた」「…で?飾りを付けたわけか」
開け放した窓から、心地良い涼風が流れ込んで来ます。空には瞬く星が見えていました。
お夕飯のあと、母屋のリビングでちょっとした工作をしました。
お母様が下さった折紙とはさみとノリで、七夕飾りをたくさん、作ったんです。スーパーウエッブの歳時記辞典に出ている通りに。3Dホログラムのガイドがあるから、作り方はバッチリ。とっても華奢で繊細な飾り。それをヒモで一つ一つぶら下げて……
お父様が「今夜は七夕だから」と言って、笹を一本、持って帰っていらしたの。七夕って何ですか?と聞きかけて、思い出したわ……それにまつわるお話を。中国の古いお話で、天界に住む新婚の夫婦が結婚した喜びに浸るあまり各々の仕事をさぼってしまい、父である天帝に引き裂かれ。年に一度、七月七日にだけ会うことを許された…という、なんだかおかしな、でも気の毒なお話。
「織り姫と彦星がね、年に一度天の川を渡って会える日なんだよ。雨が降ると二人は会えないんだ。だから、笹に飾りを付けて晴れますようにって星に願いをかけるんだよ」
……?
私が調べたものと、ちょっと違うような気がします。でも……元々のお話と、後世外国に伝わって出来たお話は、変化しても当然ね。
お父様によれば、ともあれ七夕とは「星に願いをかける日」なのだそうです。
でも、お父様は話しながら、私の顔を見て。「あ…あー」と黙ってしまいました。私が宇宙の別の星に住んでいたこと、地上から見た空が雨空でも大気圏外の空はいつも安定した状態であること… そんなこんなを一度に思い出したような顔をして。
「…ま、子どもの行事だよ」
照れくさそうに言って、お父様は頭を掻きました。
お父様は私を喜ばせようとしてくださっているのです。とっても嬉しい、と思いました。
「…島さんと次郎さんが小さかった時は、七夕にどんなお願いをしたんですか?」
だから私はそう聞きました。
飾りの他に、細長い短冊に願い事を書いて笹に下げる……それはウエッブの辞典を見ているから、知っています。でも、島さんたちが小さかった時、七夕にはどんな願い事をしたのかしら。お父様もいっしょに、お願い事をなさったのかしら?
後ろで、次郎さんが言いました…
「大体、飾りはお袋とか幼稚園の先生とかがしてさ。俺は短冊に『パイロットになりたい』って書いた。兄貴が宇宙戦士訓練学校へ入った頃だったからな。…それが覚えてる一番古い七夕かなぁ…」
次郎さんが生まれた頃、地球はガミラスからの遊星爆弾攻撃に晒されていたのです。地球の人々は真っ赤に焼けただれた地表を捨て、地下都市に移り住んでいたのだとか…。
「……大変なときだったのね…」
まあね、と次郎さんは肩を竦めました。
「その後の七夕で、『ヤマトに乗りたい』とか『青い空がずっとなくなりませんように』なんてことも書いたよ。俺が小さい時はどっちかっていうとそういうマジメなお願いが多かったかなあ」
「大介が小さかった頃は、平和だったからね…」
お母様がそう言ってキッチンから顔を出しました。「あの子は子どもらしいこと書いてたわよ」
「…どんな?」
「そうねえ」
ケーキをいっぱい食べられますように、とか?
身長が高くなりますように、とか…。
億万長者になれますように、とか?
「うふふふ」「あはは」
そうなのね。そういう、とっても個人的なお願いをしてもいいんだわ。
「ま、子どもの行事だからさ」
…と、またお父様が笑いました。
「じゃ、俺も一つ書くか」
次郎さんは折紙の短冊に何か書きました……
<宝くじ一等が当たりますように>
「次郎お前〜、夢がないな〜」
そう言いながら、お父様も。<将来ハゲませんように>
「ちょっとお父さん〜?!」夢がないのはどっち?!
お母様も大笑いしながら書いています。
<みんなが健康で過ごせますように>
「テレサはなにか願い事書かないの?」
「ええと…。あの…」
……何をお願いしたら良いのかしら。
折紙で作った飾りを撓わに提げた緑色の笹はとても奇麗で、それが風に揺れてさらさら音を立てると、本当に願いが星に届くような気がします。
星……。
宇宙のどこにももうない、私の故郷、テレザート……。
何をお願いしたら良いのかすぐには思いつかなかった私は、短冊を持って新居の方へ戻りました。ですが、皆さんの書いておられるのを見たら、「お願い」というのはすごくプライベートなことでも些細なことでも、なんでもいいみたいなのです。
そして、それは本当に本気でお願いしているわけではなくて、そんな気持ちになれれば良い、その程度の願いなのだ、ということも分かってきました。
そこで私も、ふと思いついて短冊に幾つか、願い事を書きました。
そして、その笹を私たちの家の玄関のところに立てました。
* * *
その晩、島さんは思ったよりも早く帰っていらっしゃいました。
とはいっても、母屋のお母様たちはもうすっかりお休みになったあとだったのですが。
玄関脇になびいている笹を見て、「何だ?風流だなあ」と言いながら靴を脱ぎ。「そうか、今日は7月7日か。…空も晴れたし、いい星が出てるよ」。
地球…というか、日本にはそういや色んな風流な習わしがあったんだなあ。「君が来てから、そういうの、たくさん思い出すようになったよ」
島さんは笑いながら、何度か呟きました…七夕か。七夕ね…
「そうだ。何か願い事書いたかい?」
「……ええ」
「どんな?」
あのあと、実は思いついたお願い事をありったけ書いてしまった、なんて。何だか照れくさくて、私は笑って誤摩化そうとしました。
「うふふ…内緒です。…島さんも書きますか?」
短冊の残りがありますから。
リビングテーブルの上に、折紙とはさみとヒモの入った箱がまだ乗っていました。
「なんだ、内緒なの?」
島さんは笑いながら、私が差し出したアイスコーヒーを一口、ごくん。
「…願い事かあ…」
欲しいものは、全部手に入れちゃったからなあ。
「俺の欲しいものは、ここにあるもん」
…あ。
島さんは、私の腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめました……「わざわざ星に願かけなくたって、君がいれば他に何も要らない」
言いながら、ソファから腰を上げて私の頬にキスをしてくれました。
「…島さん…」
…ま、でも。
私利私欲むき出しの願い事、俺もひとつくらい書くかな?
「宝くじが当たりますように、とか」
「あら、それ次郎さんが書いていましたわ」
「あっははは…!!」
島さんは大笑いしながら、リビングテーブルの所まで行って短冊を何枚か、箱から出しました。「鉛筆で書いてるの?…筆と墨で書けば本格的…」
急に島さんは言葉を切りました。
何も書いていないはずの短冊を見て、目を瞬き。
私のことを、見つめました……
(?… どうしたのかしら?)
島さんは、とってもおかしな顔をして私を見ています。
…………あっ!!!
途端に私は、島さんがどうしてあんな顔でこっちを見ているのか、気がつきました…
(きゃあああ………どうしましょう!!)
さっき書いた願い事。
幾つか書いて、あまりにも虫が良過ぎるかしら、こんな願い事、あまりにも恥ずかしいわね、と思いとどまったものは、笹にぶら下げずにあの箱の中にしまったんだったわ…!!!
「あのっ、…いやっ……見ちゃ…駄目です…」
慌てて駆け寄って、恥ずかしい短冊を取り返そうとしましたけれど…
島さんったら、今にも笑い出しそうな顔をしてその短冊と私とを見比べて言うの…。
「…こんな事、お願いするの?」
「もう、いやんっ…!!返してください…!!」
「…星にお願いしなくたっていいじゃないか」
「えっ?」
「俺が叶えてやれるかもしれないだろ?」
いや、多分、叶えて上げられると思うよ?
ちょっと頬を赤くしながら、島さんは言いました。
「でもさ、今のままでも俺は充分だけどな…」
「……!」
「ああもう。君ってひとは…」
可愛くって仕方ないよ、と言いながら… 島さんはまた私を抱きしめました、ぎゅぅっっと。…それから、そうっと優しく……
——じゃ、今すぐ君の願い事を叶えて上げよう。
ベッドの中で彼がそんなことを言うから、私はまた頬を赤くして抗議しました。だって、そんなことばっかりお願いしたんじゃないのよ?
大体、そのお願いごとは…恥ずかしいから、ぶら下げるのをやめたんですもの………
「…でも俺は叶えたい」
「んっ… もう…!!」
ああん……
笹の枝の上で、夜風に吹かれてなびく短冊には、もっと…カッコ良く書いたのよ。
——島さんと私の愛が、永遠でありますように…… って。
Fin.
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<あとがきらしきもの>。
ぷぷぷ。
……テレサがぶら下げなかった短冊には、なんて書いてあったんでしょうか。(松本美女に共通の、プロポーション上の問題点、と考えると多分一発で分かります。何かが大きくなりますように、って書いたんですよ)w
いや、でも島は別に気にしないと思うぞ? ユキも同類だし(w)。
でも、大ききゃ良いってもんじゃない、って頭では分かっていても、プールや海でボン・キュッ・ボンのおネーサンを見ると「うわーすげー」って思わず見とれてしまいますよね。テレサの場合はキュッ・キュッ・キュ……(おい)だから、気にしてたのかもしれませんな。
しかし、…ほとんど都市伝説ですよね……「揉まれると大きくなる」って言うのは(爆)。
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