緑ふん純情派 第3話(2)
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高く澄んだ、どこまでも青い空!
空と海との境目まで果てしなくただ青い、南の島。
ワシも残りたい〜〜、とごねる頭王田のパパを、白髪執事のゲーニッツが宥めて連れ去ったヘリポートから、一行は茶ヒゲ執事タランの運転するマイクロバスで島のほぼ中央にある別荘へとやってきた。
(成田から大型ヘリで、ヘリポートからはバスって。…無人島、って感じしねえなあ)
誰もがそう思っていたのだが、路面は舗装されていないデコボコ道だし道路沿いに生い茂るのは南国っぽいシュロの木だ。海岸線には本格的に並ぶヤシ、まっ白な砂浜と波打ち際から水平線までずうっと真っ青な海、そんなのを眺めているうちに、だんだんと雰囲気が出てきたものだから盛り上がる。
「すげー、一面プライベートビーチじゃん〜」
早くも浮き輪を腰に装着した相原が、眼前に広がる美しいビーチを見て叫ぶ。
そして、ついに姿を現した別荘に、一同度肝を抜かれた。
でけー。
地上3階、長さは263メートル… ちょっとしたリゾート・ホテルだ。
「でもね、お世話係はこの人だけなのよ」
だから、無人島みたいなものでしょ?
そう言って、バスを降りながらテレサが肩をすぼめて微笑んだ。
慎んでお世話申し上げます、と深々頭を下げた執事のタランに、ぱちぱちぱちと拍手が上がる。
「タランさん。何もしなくてよろしんですのよ、ワタクシターチはサバイバルにきたんでーすもの♪」
スターシアがタランに慈愛の微笑みを向けた。
「おサンドンは、このミスタ・古代が引き受けますわ〜」
「えっ?」
スターシアに名前を呼ばれてちょっと頬を染めた守。だが、そうですか、そりゃ助かります♪と微笑んだタランにあっという間に食材のたっぷり詰まった巨大なリュックを背負わされ、3センチほど地面にめり込んだ。
「…えっ?えっ?、いつからサバイバルってことになったんだい?…ス、スターシア、スターシア〜〜??」
しようがないな、手伝おう、と真田が名乗りを上げる。早くも海パン一丁になっているのは沖田校長だ。加藤が、養護教諭・佐渡先生の出で立ちを見て悔しそうに唸った…… 「佐渡先生、赤フンかっ…!!」
うかうかしていると、緑フンを手渡されそうだ。大介は慌てて、テレサの腕を引っ張った。
「ねえ、中に入ろうよ」
「あ、ええ」
その時である。
——うごっ!!げほほーっ!!
バスの下部、バゲッジスペースのあたりから、何かが咳き込むような音がした。
「ぶげほ…がはっ…」
「……総藤さん!!」
みんなの荷物やスーツケースの後ろから、瀕死の形相で這い出してきたのは、テレサの(元)家庭教師、デスラーだった。
「あんた、何してんですかこんなところで!」
タランが驚いて駆け寄る。
「うげほっ……ぶべはっ…」
へご、うげげ。
排気ガスに侵され切った喉で、事情を説明しているようだ……
「…ワ、わたヂも… 一緒に…いギダがったのだ……ダラン」
「だからって、何もこんなところに隠れて乗って来なくてもいいではないですか」
まったく、この人ときたら…!
(鬱陶しいんだけど、不憫で放っとけないんだよな…)いつものことながら上司を見捨てられないタランであった。
「まあ、大丈夫デースか?」
這々の体でやっと出てきた排ガスで真っ黒けのデスラーを見つけ、スターシアが心配そうに様子を見に来る。「お可哀想に…」
「…あ…あなたは……」
一瞬で恋に落ちるデスラー……背後では真田に支えられ巨大なリュックに押しつぶされそうな守が叫んでいた。
「スターシア、僕のスターシア!? 僕は可哀想じゃないのかい?!」
「……古代ー、とにかくこいつを運んでしまおう」
呑気な真田は、まさに今、新たな三角関係が芽吹いたことなどてんで気にしちゃない。
「……うわー」
先生たちがいきなり恋のアバンギャルド?! かなりうざーい(w)……
3ーAの面々は、先生たちを後目に別荘へと踏み込んでいった。
* * *
「でも、電気は通ってるんだな…」
呆気にとられて大介が呟く。
広く明るいエントランスは整然と片付けられ、手入れされていた。無人島とは言え、定期的に清掃業者が入るのだそうだ。
「自家発電してるのよ。水道もあるし、パソコンも使えるわ」
「……そんな無人島ってあり?…」
「人はいないもの」
「……………」
先に立って歩くテレサの背中に、古代がぶつくさ。「人がいなくたって、電気と水が通ってればサバイバルじゃないよなあ」
「ま、いいわよ」
あんまり不便なのもやっぱり困るしね、とマドンナ・雪ちゃんはそこそこご満悦。
そして、エントランスの奥にエレベーターまであるもんだからみんなして笑ってしまった。
「全員、乗れるんじゃない?」
先生たちを置いてきちゃったから、私たちだけで最上階を占拠しちゃわない?屋上にジャグジーもあるしね♪
嬉しそうにそう言って、テレサが先頭に立ってエレベーターに乗り込む。
ちょっと窮屈だけど、じゃ、3階ね…… ドア閉まりまーす。
で、『3』のボタンを押した、そこまでは良かった。
———ガクン。
「あれ?」
「なに?」
少し上昇して、エレベーターが急に止まった。「どうしたの…?」
「故障か?」
「ヤダ、変なこと言わないで」
無人島である。電気は通っていても、こんなところでエレベーターの故障なんて、洒落にならない。
その上、直後に恐ろしいことが起きたのである……
ガクンともう一度衝撃が走り、エレベーターが動き出したので皆ホッとした……のも束の間。
「ねえ、…なんか…早くない?」
「ど、どうしたのかしら」
「やーん…!!」
エレベーターは急に上昇速度を上げ始めた。3階建てなのに、まるでサンシャイン60かみなとみらいのランドマークタワーに昇ってるような速度である。ご丁寧に耳鳴りまでしてる……
「な、なんだ!?」
ついに床に押し付けられるようなG。ガタガタと揺れるエレベーター内部の照明が、衝撃で点いたり消えたりした……
「ぎゃああああ!!」
………チーン。
ふっと重力から解放されたような感覚と共に、エレベーターが止まった。
一体、何階に着いたのだろう?
(いやいやいや、3階以上はあり得ないでしょ、屋上があるにしても4階だよね!?)みんなの脳裏には一様にその文章が浮かんだ……
ドアが開く。
「…………は?」
素っ頓狂な声を上げたのは、ドアの向こうにいた人物だった。
「な…なんだ…?!」
「・・・・・・・」
開いたドアの向こうに広がる光景と、そこにいる人物とに口も利けないほど驚いたのは、もちろんこちらも同じである——
赤い塗装の床。天井には巨大なスクリーン、壁面には所狭しと並ぶ計器類。そして、その部屋の正面には天井まで届く大きな窓が5つ…… その外に見えているのは、青い空…なんかじゃなく、真っ黒な、……なんだ?!夜空???
「……ははあ、これは…なんかの映画の撮影用セットだな?」
古代が、フフン、この手のドッキリには引っかからないぜ、と得意げに一歩前に出た。とたんにそこにいた男が一歩後ずさる……
「艦長代理、一体…その恰好は」
「はあ? 館長代理……って?」
どこの館長?図書館?
で、古代の出で立ちはアロハシャツに短パン、雪駄、である……夏の南の島だもの、その恰好は、って言われたってさあ。
対して相手の恰好の方がずっとおかしい。
驚愕に顔を引きつらせたその男の服装こそどうかしてる、と古代は思った。白い上着にでかいオレンジ色の矢印マーク(しかもテンションだだ下がりの下向きだ)、それ、まるっきりコスプレじゃん?
「ああそうか、分かったぞ…」
古代は一人合点する。
これは、なんかのイベントなんだ。コミケ会場と同じ。だって、すっげえアニメっぽいもん。この場所も、見るからにSFっぽいじゃないか……?
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