おにぎり(2)

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 もうずうっと昔のことです……

 私がまだ小さかった頃。
 バスケットにフルーツを詰めて——
 私と…お父様はよく、森へピクニックへ出掛けたのです。

 …それは半分、幼い私がサイコキネシスを上手に使いこなすための練習の場、だったのですけれど…。

 

「こんな風によく晴れた気持ちのいい日に、深い森の奥で… お父様と私は、こうやって草の上に座って… 花々と話を交わしたのです……」


<テレサ、さあ…手を伸ばして。あの花のつぼみに開いてください、とお願いしてごらん>
 お父様の声は、…今思えば、島さんによく似ていたんだわ……——


 
水の流れも風の行方も、緑の息吹もみんな…、望めばお前の意のままになる。

 だが、それらを服従させようとしてはならないよ。彼らは皆、お前の友達だからだ。

 お前は…命を奪う荒ぶる神にもなれば、命を守る強くて優しい女神にもなれる。

 テレサ。私はお前にその力をもって…生命を守る愛と平和の使徒になって欲しい——


(でも私は…)

 そう願ってくれたお父様を守ることも救うことも出来ず、祖国の戦いをやめさせることも出来ず。あまつさえ…… あの世界をすべて、滅ぼしてしまった。
(緑も風も…花も、そして……お父様もお母様も……すべてを)

 私は、屠り…破壊してしまったのです……——



「……君のふるさとは、星ごと全滅してしまったんだってね。大介が言っていた」
 気の毒にな…。
 私の隣で、島さんのお父様が……遠慮がちにそうおっしゃいました。

 いいえ…違うのです …全滅させたのは……わたし…

 


「でもね、テレサ?!」
 突然、力強い声でお父様が私を遮りました。
「ここが今は君のふるさとだからね!君はここを守ってくれた。大介を助けてくれた。……私たち家族を守ってくれたんだから」
 だから、いわばこの地球の緑は全部、君のものなんだ…!
「それに、こんなオヤジで申し訳ないが、私が今は君のお父さんだ。母さんだっている」
「お父様…」

 私をなんと言って慰めたらいいものかと困っていらしたのでしょう。饒舌に、でも焦りながら…お父様は早口にそうおっしゃって…。

「…あ、あ〜あ〜…そんな泣いちゃって!」
 そして慌てて、お弁当の籠の中に敷いてある布巾を引っ張り出して、私の涙を拭こうとしてくださったの。その拍子におにぎりがひとつ、芝の上に転がり出しました。


 あ。


 ほんの少し傾斜したお庭の芝生。白と黒のおにぎりが温かい緑の上をころころと転がって行くのを、私たち、ぽかんとして見つめていました………そうしたら、急に可笑しくなって。

 涙なんか、気がついたら消えていました。

 



 おにぎりはもちろん、すぐに拾いに行きましたよ。

 お父様と、木陰で食べたおにぎり、「お弁当」はとても美味しかったです。晴れた日なら毎日、お外でお弁当を食べたいくらい。
 昔……テレザートで、お父様とあの森の中へピクニックに出掛けた時のことが今でも時々懐かしく思い出されます。幸せだった頃の、私と……家族。
 自分自身の過ちで失った、あの大切なものを……今、もう一度私は手にしています。それはみんな、あなた… 島さんのおかげ。


  今度のお休みには、島さんも、いっしょにお庭でお弁当食べましょう?

 緑が、次々と生まれて増えて行きます。それが眩しくて…美しくて、また泣いてしまうかも…知れないけれど。


<この地球の緑は、全部、君のものなんだぞ!>って、お父様は言ってくださいました。
 全部、私の……。
 全部。
 緑だけじゃなく… 
 島さんも、お父様も、お母様も、次郎さんも……


 みんな大事な、私の……宝物です。

 

                                 (おしまい。)                       
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<あとがき>


 二世帯同居に抱くユメ。
 ああ、現実はこんなにハッピーじゃあございませんが…。

 ま、そんな話はさておき。

 確かに、テレサは「スレてない」からな…。こんなヨメが来たら親父としてはきっと
嬉しいよな(w)。
 そして、子は親の鏡。島クンのご両親ならさぞかし出来たご両親だろう、と勝手にでっち上げてみたのがこんな話です。
 ……たった独りで生きてきたテレサ。
 この家にお嫁にこれて、ホントに良かったねと、ERIは手前ミソながらホントにそう思います…w




 「ヤマト2」の第15話あたりを見ていると、滅亡したテレザートの様子が出てきますが、テレサって…家族は居なかったんでしょうか。

 これって、かなり妄想の余地があると思うので、どう考えるかは人それぞれだとは思うんですが……(つか、そんなテレサについてあんまし考えないってフツーは!!)。

 テレザートの惑星上では大国同士が戦闘を繰り返し、全世界的規模で悲惨な状況になっていた…というのがあの星の最後の歴史です。その最中、結果的にその戦いを終わらせようと願ったテレサが、自分の体とテレザリアムに備わっていた能力を把握し切れずに自分以外の生命を全滅させ、都市のみならず惑星全体を壊滅に追い込んでしまった。

 ……あのテレザリアムって誰が作ったのか。

 テレサ自身とは思えない… 彼女自身が、「私自身と、私の使うメカニズムに、恐ろしい力が備わっていることに気づいたのです」と言っている(15話)。作った人があれほどの能力に気づかない…ってことは考えにくい。じゃ、彼女以外にテレザリアムを作った人が他にいるのでは、ってことになります。なりません?!
 なので、ERIはそれが彼女のお父さんだったんじゃないか、って勝手に考えた(それが「ヤマト2」のテレサ視点でのサイドストーリー「碧」を描こうと思ったきっかけです)。
 たった独りで居たくせに美しい言葉を話し、知識も語彙も豊富だった謎の女神。その彼女のすべてを形成したのは、大好きだったお父さん…。

 で、ホラ、島クンっておにーちゃんじゃない。あの当時だって、お声は40代の仲村さんですよ(w)? 見ようによっては、おとーさん、っぽいじゃない?(w)テレサにしてみれば、島がド真ん中ストライクだったのって、そういうわけなんじゃ…(それこそ勝手な妄想だが・w)

 そして、さらに地球へ来てみりゃ島さんには素敵なロマンスグレーの「お父様」までおいでになる!! テレサちゃん、嬉しくないはずがありません。下手したら、島…自分の親父にまでヤキモチ焼くはめに……(爆)。


 でまあ、その辺の妄想はさておき(w)、
「テレサに家族がいた」というのって、フツーは皆さん劇場版「さらば宇宙戦艦ヤマト」を直前に見ているせいか、どうも想像しにくいですよね。

 「さらば」のテレサはお釈迦様状態ですから、家族がいるとかファザコンだったなんてそんな人間臭はしません。でも、「2」のテレサは別人ですし設定もかなり違います。「反物質人間」ではなくて「反物質を発生させる超能力は持っているけれど、制御は出来ない」という超・超能力者なだけです。 ここ、混同しやすいですが、オネガイ、「さらば」のテレサのことは忘れてくださいねっ(笑)。

 彼女にだって、普通に両親が居て、家もあって、もしかしたら友達も居たかもしれないしペットを飼っていたかもしれないし、ピクニックくらい行ったかもしれない。好きな花や音楽、本や趣味があったんだと思いたい。

 ……全部、自分で壊しちゃったけど……(><。
 

 そんなわけでこのサイトでは、テレサの生還だけでなく、島と結婚したあとのテレサに彼女が失ったもの、欲しかったものを少しずつゲットして行ってもらいたいと思っております。島さんとらぶらぶ、はもちろん、家族も、自由も、そして新しい命も。

 そう、それがテレサ親衛隊のミッションなんでございますっ! 

 

 

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