カサブランカ(3)

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 キスの合間に、言葉を… 少しずつ。

「…まだ髪が…濡れてる…わ」

「すぐ乾くよ…」

「お夕飯は……」

「…食ってきた」

「…そうだわ…お花、……ん……ありがとうございます」

「まだつぼみばっかりだけどね。滑り込みセーフで買えたんだ、最後の一束だった」

「………」


 そう言えば。
 カサブランカのつぼみに似ている…って。そう思ったんだわ……
 私は独り、思い出し笑い。


「…なに?」

「…なんでもない」

「なんだよ」

「……内緒よ」

「…教えろよ」


 …よく見れば、色も形も、まるで似ていないわ。


「うふふ」

「…なんだよ…」

 教えないと、…こうしちゃうぞ……

 


 島さんは言いながら、私の首筋にキスをして……
 そのまま舌を滑らせて、どんな秘密も絶対しゃべらずにはいられないような愛撫の仕方を。
「…あっ……あぁん… 」
 唇と指を使って、敏感になっている所を全部。
「…あんっ、わかった… わかった…から」
「白状する?」
「……はい…」
 
 んもう、…… そんな大したことじゃないのよ。

「…あのね、」


 あなたの…… これが。

 
 分かった、って言っているのに、下腹部をまさぐったまま止めようとしない彼のつぼみを、私も握ってあげました。

「……百合のつぼみに似てるな、って…思って」

「ええ?」
 島さんは苦笑。まったくキミときたら…

 

「俺のはあんなスラッとしてないぞ」

「そうね」
 くすくすくす。

「…ねえ …もう一度してくれる…?」

「え?」

「……口で」

 …あなたがそれをお好きなら… 何度でも。


 彼の脚の間に膝をついて、それを両手にそっと抱きました。握るとトクン、トクン、と脈打っているのがわかります…… そっと先端を口に含みました。
 そこを舌で触ると彼が思わず声を上げる場所、というのがあります。それを辿って。子ネコがミルクを舐めるみたいに…

 でも、私の口が小さいのかそれとも彼のあれが大きいからか、ちょっとしているとだんだん口元が疲れてくるの。ずっと大きなものをくわえているのって、案外疲れます。犬とか、ネコとか…口でモノを運ばなくてはならない動物たちは大変ね、ってなんだか頭の中は冷静。でも、島さんはちょっと息が早くて、声を出すのを我慢しているみたい。

(……うふふ、いつもと逆ね)

 そう思った途端、島さんが私の頬を撫でました。
「…?」
「…君のもしてあげる」


 一瞬何のことか分かりませんでした。
 突然私を仰向けにさせて、島さんの頭と脚が、私とあべこべに…

 えっ… え…… いや…っ  


 目の前に、彼のつぼみ。
 でも… あの、…そんな。
「きゃ…」

 両脚の間に入っていったあなたの舌が、太腿をつうと滑って、深い所へと潜って行くのがわかります、あぁ… 私の中に入っているのは、あなたの…指?それとも……?

 でも、こんなの、初めて……

 あなたが私の脚の間の小さな芽を舌や指で翻弄するから、突き上げる快感に背筋がのけぞって、視界がぼやけてしまう…… それでも懸命に、目の前にある彼のものを、両手で包んで、舐めました。それだけでは悪いような気がして、跳ね上がるようなつぼみを両手で捕まえて、口の中へ……
 そうすると、私の脚の間のあなたは、もっと激しく吸ったり舐めたりしてくれて。


 ……島さん…?
 あなたは私をドキドキさせる名人ね…
 一生懸命ついて行こうとするけれど、いつも…私、一人で迷子になっちゃう……!

「…し…まさんっ、…そんな…ふ…にされたら、」

 
 あたし、できない…


 ああ、変な声。
 あなた、私に口でしてくれる?って言ったのに。頭の芯がぼうっとしてしまって、私…あなたのものを口から放してしまいました… 唾液に濡れたそれを頬にくっつけて抱いて…せめて、頬擦りするくらいしか…。

 これじゃ私は…… 何も… できない……わ

 

「やっぱりまだ駄目か…」
 しばらくして、島さんが身体を起こして笑いました。
 ひどいわ… 
 だって、あんな風にされたら… 私、何も出来なくなっちゃいます。

 きっと私、半分涙目。

「…島さんのいじわる…。私のは触らないでくだされば、もっと上手にして上げられます」

「…そうはいかないなあ…」

 だって、俺も…してあげたいからさ……


「あっ、…やん、…いやっ」

「素直に気持いい、って言いなさい」

「………(んもう…また)」
 第一、 こんな格好… 恥ずかしくって

「じゃあ…普通にするならいい?」

「……はい」


 正常位、というのですね?
 これが一番、好き………


 島さんの逞しい腕が私の上半身を包み込むように抱きしめて。浅いキスから… 舌が深く分け入ってくる。…後頭部に何か熱いものが弾けるの。胸いっぱいの安心感に溺れそう…

 他の人と比較なんかできないけれど、きっとあなたはとても…キスが上手なのね……

 ふいに、「他の人はどうなのかしら」と思いました。
 蕩けるようなキス。
 他の人はどんなキスをするのかしら…


「大介…さん?」

「…ん?」

「…あなたのキスは… 上手な方なんですか?」

「………」

 私、時々突拍子もないことを訊いてしまうようです。この質問も、その部類に入るのかしら。恍惚としたまま私は訊いたのですが、島さんは急に我に帰ったように目を丸くしました。

「上手かどうかは…わからないな」
 なんでそんなこと、聞くの?

「……とっても…上手だと思うから…です」


 だって。
 あなただって、私を「奇麗だ」って言うでしょう?
 私…… わからないですもの、私が他の人と比べて奇麗かどうかなんて……


 ああ、そう言うことか、と島さんは苦笑しました。
「……他の人とキスしたいのかと思っちゃったよ」
「いいえ、まさか」


「俺にとって、君はこの世で一番奇麗だ」

 比較して、じゃない。敢えてそう言おうか?比較して見ても、君はとても奇麗だけど…
 俺が、君を奇麗だと……そう思うからだよ。


 じゃ…


「君が、俺のキスを上手だと思ってくれるのなら…、…じゃあ、そうなんだろうね」
 君のために。
 精一杯、愛してあげようと思うから………


 そう言いながら、また島さんは唇を押し付けてきました…同時に私の両脚を押し広げて、腰をその間にぐっと入れてきたの…

「…ん…ぁ…っ」

 そう、最初だけ。
 あなたの熱いものが、入口を割って入ってくる時だけ… ちょっと、痛い。でもその痛みは、私がずっと、待っていたもの……


「…ああ …… 大介…」

「ただいま…テレサ」

「ン…ずっと待ってた… 待ってたの…… ぁぁんっ…」

「…うん… 」

 俺もだ……

 


 あいしてる。

 


                *

 



 濡れた髪のせいで湿ってしまったシーツを取り替えると、私たちは改めてベッドに横になりました。
 もちろん、今度はちゃんとパジャマを着ましたよ。

 ……裸で寝ちゃってもいいんですけど、…そうすると… 朝、目覚めた時に島さんが私の身体を触るから、…またシーツを…汚してしまうんですもの……

 


 ふいに、月明かりだけが差す仄暗い室内にふわりといい香りが漂いました。
 軋むベッドの横に置いたカサブランカのつぼみが…… もうひとつ。開いたみたいです………
 ほんのり漂うあの香りに、見つめ合いながら私たちは微笑みました…


「Here is looking at you …… 」

 不意に、島さんがそう呟いてふふふっ、と笑って。
 私をきつく、抱きしめました——

 


                           <君の瞳に、乾杯。> Fin.
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<言い訳〜>

 


 あ〜〜、またしても1960年代なことを…。

 いいんだよ、モノクロ映画好きなんだよ、放っといてちょ(w)。
「君の瞳に乾杯」って、これは「カサブランカ」っていうハンフリー・ボガートの映画の有名なセリフなんですけども(最後に島が言う英語の意訳です)、単に百合の名前と引っ掛けただけの話〜〜。

 この手の話って、どうしても似たようなシチュになってしまいますから舞台設定が難しいんですよね。下手すれば801になるし(w)。かといって、我がサイトの場合は「読んで幸せになれるメイクラブ」を目指してますから、そこから逸脱するのは避けたい。

 そこで、…すいません。
 自己開発中のテレサちゃん的なお話になってしまいました。


 テレサが。 

 島を好きで好きで、もうどーしようもない……、っていうのが伝わったら嬉しいです……♪

 

 

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