第3話『無人島』
まほろばからヤマトへ。(おい!)
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無人島?!
「頭王田さんち、…む、無人島…持ってるの?」
相原が、すっげえ、と言いながら話に割り込んで来る。
マジかよ〜、と太田も首を突っ込む。
南部の御曹司も無論興味津々。利益の出ない取引なんぞしない主義の、南部ん家である… 無人島、などというまるまるムダな物件は、ナンブ不動産には縁がない。
「小さい頃はよく行ったんだけど」
執事のゲーニッツと一緒にネ、とテレサは肩をすぼめた。あの無人島、お友達いないしお店もないし、パパが変な腰ミノとマント付けて踊るのが嫌で、小学校へ上がってからはほとんど行かなくなっちゃってたの。でもね、別荘だけはとっても素敵なのよ…
「ホントは、…島さんと2人きりで行きたかったんだけど…」とちらり、上目遣い。「…2人っきりはダメだ、ってパパが…」
ハぁ、そりゃそうでしょ…、の大介である。
あの迫力オヤジにただですら目を付けられている自分だ。ヘーコラしておかなくちゃ、命が幾つあっても足りやしない。
——嬉し恥ずかし裸足の季節、もうじき解放的な夏休み。
テレサのお腹の病気もすっかり良くなり(w)、彼女が大介を、頭王田グループの所有する無人島へと誘ったことから波紋が広がっている最中であった。
「古代進、(もちろん)いっきまーーす!」
森さんも行くって!!
ちょっと古代くん勝手なこと言わないで!
行くんだか行かないんだかどっちだか分かんないけど、とりあえず…じゃ、古代さんと森さんね。
俺も俺もと手が挙がる。
相原さんに、太田さん、南部くん。それと…加藤さんもね?
テレサはニコニコしながら、参加者の名前をノートに書き付けて行った。山本さん、斉藤さん、新米さん、それに京塚さん、林さん、山田さん、西尾さん……あとは?
…と。
ガララ!
「……皆さん、何の騒ぎデースカ?」
午後一の授業。英語教師のMs.スターシアが教室のドアを開けて入ってきた。ちなみに、まだ5時限目始業のチャイムは鳴っていない。
いえ、なんでもありません…と慌てて大介が言おうとした瞬間、テレサが横からにこやかに言い放ってしまった。
「先生も、夏休みに一緒に無人島へ行きませんか?」
「は?ムージントウ?」
あちゃー…
大介と、南部、太田…あたりが頭を抱えた。駄目だって…スターシア先生はああ見えて無類のお祭り好きなんだから…!
しかし、さらに強力な「イベント好き」が彼女の背後にいた。というか、ま、通りがかった、とでも言おうか。だって午後の授業がもうじき始まる所だったわけだから。
「ななななんですとーー?!!」
「あら…ミスタ・古代」
スターシアの背後から勢いよく首を出したのは、古代の兄・数学教諭の古代守である。
「スターシア、スターシア!!聞いたかい、無人島ツアーだよ!?」
「……気安く呼び捨てにしないでくだサル」
冷たくあしらわれているのにもおかまい無し。古代守はウキウキと話に乗ってきた…
「で?それはいつなのかね?ん?!いつ出発なんだい??」
「ツアーって……」
いつからツアーに?…しかも、先生なんか誰も誘ってないんだけど…。
しかし、大介が頭痛になろうが、守先生にバレるのは時間の問題だっただろう。なんせ…弟が行く気マンマンだからである(笑)。
で。
なんだかんだで生徒教師入り乱れて総勢15人ばかりが名乗りを上げ。頭王田リゾーツ・デザートアイランドへの旅行が決まったのであった。
(……なんだかなあ……)
大介はその日数十回目になる溜め息を吐いた……
元々は、自分だけが誘われたのだ。彼女と2人っきりで無人島の別荘へ泊まるはずが、娘にぞっこんの頭王田のオヤジから「島クンと2人っきりなんてお父さん許しません!」とNGが出た。ま、そこまでは、しょーがないでしょう。
と思ったらテレサがとっとと方向転換したのだ……
「じゃあせっかくだから、みんなで行きましょうよ」と。
テレサのいうところの「ステキな別荘」とは、なんと建坪263地上3階建て、展望台付きジャグジー付き煙突付き(?)なのらしい。15人や20人は楽に泊まれる豪・別荘だという。
けど、これじゃあまるで修学旅行だよ…。
これだけぞろぞろ行くとなれば、どう考えても2人っきりになんか、なるチャンスはあんまりないな。そう思うと、ちょっと残念な大介だった。(…ちぇ)
その上。
いつの間にか「引率」とか称して先生たちまで混じってるのだ。
守先生はもうしょうがないとして(w)、英語のスターシア先生、無人島で絵を描くと言って真田先生が、そして保健室の佐渡先生としかもどういうわけか沖田校長までが、いつのまにかメンバーに名を連ねている。
(……無人島でバカンス、って年齢じゃないだろ…校長)
白髪にサンタ髭の校長が、波打ち際で日光浴……。
(…トド)
しかも、白。…プッ。
とか妄想していたら、後ろからぐいっと腕を掴まれた。
……加藤が例のアレを手に、鼻息荒くなっている。
「島!無人島行ったら、遠泳、しようなっ!!」
遠泳?
「……ソレ、着けて、…か?」
「おう!」
「……やだ」
……遠泳は、まあ、いいけど。ソレは…。
なんでだよーーーっ!!!
途端に加藤は膨れっ面だ。
「やだよ」「なんで!!」「オレはふつーの海パン履くもん」「バッカやろう、これに勝る海水着はないぞ!!」「お前一人でやってろよ!」「そうはいくか!」「やだっつの!」……だって、それ!モ…モッコだろっ!?
「なあに〜〜?何の話?」
あろう事か、背後から森さんの声… こりゃ慌てる。
「な、なんでもないよっ」
ところが加藤のヤツ、例のものを両手に持ったまま森さんに言ったのだ。
「森さんっ、夏の海と言ったらこれだよね!!」
ヒラリ。
両手に腰紐、するりと垂れた細長い布……(しかもご丁寧に、赤・緑・黄色・青・黒…と五色)
「な、なあにそれ?」
「男の水着さ!」
「や〜め〜ろ〜よ〜〜〜加藤…」
森さん、ドン引きしてるだろ!!
大介は真っ赤になって、加藤のもってるソレを叩き落そうとした。ら。
「……い、…いやん……」
げ。
あろうことか… 森さんの頬が、赤い。
「いやん」とか言いながら、加藤の持ってるアレに目が釘付けだ……
(ウソ)ドン引いたのは大介だった(w)。
「ねえ?あ…赤は誰のなの?」
「赤は古代だ!」
「あらそう…」
緑は島ので、俺のは黒だぜ!
(大介があっちで、「俺んじゃねえ!」)
…ふうん。
「……黄色と青は…?」
「うーん、まだ決めてない」
加藤が言い淀んだ時、またしてもヤヤコシイのが会話に加わってきた。
「…私、青がいいわ!」
「は?!」
ニッコリ笑って大介の後ろからそう言ったのは、テレサである…… 加藤が困ってる、そりゃそうだ。
「頭王田さん、これは男の水着ですから…」
「え… いいじゃない?」
「よくない…よ…」
てめ、加藤!想像するな!! フンドシ一丁(しかもモッコ)のテレサ、を大介も瞬時に思い描いて、股間がウッ。…だから、やめろってオレ!!
加藤と大介が困り果てて(いや妄想しすぎて)いると、目の前の森雪までが挑戦するような目つきで静かに言った。
「……なら、あたしに黄色を寄越しなさいな」
はい?
★$%#☆!
はい〜〜、鼻血拭く〜。
とにもかくにも。
………健全な青少年には色々と毒な夏休みである……。
終業式も瞬く間に過ぎ、ヤマト高校3−Aご一行様が<頭王田無人島リゾーツ>へ向かう日がまもなく迫っていた(笑)。
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