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………が。
くだらない話で盛り上がったり、互いの嫁さん自慢をしたりしていて、どういうわけかグラスが増えてしまい。
島があれっと気がついたときには、時刻は19時を回っていた。
やべ、帰らなきゃ。
「おわっ…」
古代も慌てて時計を見る。まずい。20時には雪が帰って来る……
こりゃ飲んでた、ってバレるかな……
島が帰り支度をしながら、ニヤニヤしている。
「…雪にバレたらやっぱり、…怒られんのか?」
ヤマト艦長どのも形無しだな……ははっ。お前、相変わらず尻に敷かれっぱなしなんだ。
なんだよー、お前だってテレサに怒られるぞ?待たせてるくせに。
「いーや怒られないね。…彼女は雪より100倍は寛大だからな」
「なにおう〜」
「俺が何したってテレサは怒ったりしないぜ〜」
「ウソつけ」「ウソじゃないって」「…雪だって怒らねえぞほんとは」
島はニヤリと笑った。そんな嘘を吐いたってムダムダ…
島の言い草に古代もムカ。
「ホントだって」テメ、島。ユキの方がテレサより百万倍優しいぞ。
「バカいえ〜、コ・ダ・イクンッ、一体何度言ったらワカルのッ!?」
ユキのマネをして島が、妙な裏声を出す。
「…クソ…よ〜〜し、分かった!!」
すた、と古代は立ち上がった。……ぐら。よろけたが、目だけはでろんと座っている。
「オレ今夜は帰らねえ!いいか、今日はこのまま飲み明かすぞ!」
「はあ?やだよ」
「テレサは怒らねえんだろ?じゃ付き合えよ」
「馬鹿言ってんじゃねーよ…」
「怒られんのか?そうだろう、お前はテレサに怒られンだな!ほら見ろやっぱり雪の方が優しくって寛大だって」
「…………。分かった!!じゃオレも帰らねえ!」
てめ〜〜〜〜、そっちこそ後で吠え面かくなよぅ?ユキにボコボコにされても知らねえから!!
「ユキはそーんなことしねえもん〜、そっちこそテレサに引っ叩かれるんじゃねえかあ〜?」
「カノジョがそんなことするカア〜〜!!」
売り言葉に買い言葉?
思い返せばくだらない理由で、ふたりはそのままおぼつかない足取りで、夜の繁華街へと繰り出したのだった………
* * *
(……島さん、今日は遅いのかしら…)
月に一度の休暇には、帰宅する前にかならず連絡を寄越す夫・大介なのだが、その日に限って夕食が済んでも、母屋で彼の家族と「おやすみなさい」の挨拶を交わしたあとも、一向に連絡をして来る気配がなかった。
帰宅が深夜になることだって…、あるわ。
今までだって、遅くなるから先に寝ていてね、ということが何度もあったもの。
だから、テレサは諦めて、リビングの照明を落し二階の寝室へ上がろうとした…… と、ビジュアルホンが音を立てる。
(ああ、やっとだわ…!)
テレサの顔が、ぱっと明るくなった……
だが、小さなモニタに画像は映らず。
音声だけが、スピーカーから流れて来た。
<……テレサ?起きてる?>
「はい!……はい、起きています、島さん」
彼はどこから話しているのだろうか、少々雑音が混じる。急いで壁のモニタに駆け寄って、返事をした。
<……遅くなって、ごめん。…ああ…と、今、タクシー…の中なんらけど>
あら、変ね…。なんだか、ろれつが回らないみたい。……気のせいかしら?
夫は溜め息を数回つくと、大儀そうに続けた。
<実はぁ、ええと…古代が一緒なんだ。悪いんだけど、リビングでいいから、ヤツの寝るところを用意してやってくれないかな…>
「……古代さん、ですか?古代さんがご一緒に?…これからいらっしゃるのですか?」
<うん……>
真夜中なのは分かってる……明日の朝、追い出すから。布団一枚、敷いてくれればいいからさ……
<ごめんね>
「いいえ、それより…リビングでいいのですか?ベッドをご用意した方が…」
<いいんだ、気を遣わなくたって>
あら、でも。そんなわけには行きませんわ。
しかし、ビジュアルフォンなのに映像がカットされていること、そして大介の、どうにも済まないと言う口調。しかも、何が起きたのかしらとテレサが訝る前に、その『帰るコール』はぷっつり切れてしまった。
仕方なく慌てて、使っていないマットレスを二階から引っぱり降ろす。それをテレサがリビングへ敷き終えたところに、玄関から物音が聞こえて来た。
慌てて向かうと、そこには古代を抱えた夫の姿。
「お〜い、しっかり歩けぇ〜」
「あ〜……?」
夫は右肩に古代を担ぎ、ずるずると引きずりながら敷地の門扉から歩いて来たらしい。左腕には大きな紙袋を提げている。
どうしましょう、とテレサが狼狽えているうちに、大介は古代をどさりと玄関ホールに投げ出した。
「こ、古代さん、どうなさったのですか…!?」
慌ててその傍に膝をついた途端、なぜ古代がこれほど正体をなくしているか、瞬時に悟った。…まあ…酔っぱらってらっしゃるんだわ。
「あ〜〜、ホントにゴメン。…愛してるよ〜、テレサ〜」
古代さんだけではなかった。島さんまで……
ごめんごめん、と繰り返すと、大介は抱えていた紙袋から白い箱を取り出し、ニコ〜ッと笑うとテレサにぐいと押し付けた。
「これ、キミにお土産。ちゃんと、履くんだぞ〜」
「えっ…?」
ターコイズブルーのリボンのかかった、銀色の模様の付いた立派な白い箱。
これは何ですか、と問う暇も与えず、夫は古代を担ぎ直そうとし、どバタ!!!とまとめて廊下に転んだ…
(島さん、…お顔が…まっ赤)
古代さんも、……。
「あの、お二人で…お酒」
飲んでらしたんですね?
いだだだだ。
「おい〜〜古代」立てねえのかぁ?しっかりしろよぉ。
2人して、床にへばる。
靴を脱いだ、ところまでは良かったが、すでに古代は白河夜船。大介はそれでも古代を肩に背負って、ずるずると這うようにリビングへと向かい……
「あー、ありがと〜〜… 布団〜」
やぁっぱりテレサは優しいな。ちゃんと布団、敷いてくれたんだねえ〜…
「……あの…」
箱を手に、後ろからついて来たテレサはリビングの入口で固まった。
何となれば。
古代をどさりとリビングに敷かれたマットレスに転がすと、大介もコートを着たまま、そこへ同じように転がってしまったからだった。
「あの………」
あの。どうしましょう…。
ぐうう。すぴー。
とりあえず、二階から持って来た掛け布団を一枚ずつ。夫と、古代にそれぞれそっと掛けてやる。
むにゃむにゃ。 ありがと〜〜……
寝言なのか、それとも分かっていて言っているのか。大介が目を閉じたまま笑ってそう言ったので、テレサはふう、と溜め息を吐いた。
(……古代さんも、島さんも… )
まるで小さな子どもみたい……。
2人とも逞しい体つきの男たちなのに、どう見てもこの構図は遊び疲れてそのまま眠ってしまった、あどけない子どもたちのように見え。
テレサは思わず、くすっと苦笑したのだった。
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