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テーブルに向き合って…カレーライスのお皿が二つ。
「おっと、付け合わせを忘れちゃったな… 福神漬とからっきょうとかさ。サラダがあった方が良かったかな」
島さんはそんなような事を言っていますが、私はお皿の上のカレーから目が離せません。ふくじんづけ?らっきょう?
「ま、いいか。…食べないの?」
「……いいえっ、た、食べますっ」
意を決して、私はスプーンを取りました。彼が今にも吹き出しそうな顔で私を見ていることなんか、ちょっとの間気がつきませんでした……
すー、はー、と深呼吸。
…と。
「はい、どうぞ」
目の前に、一口分のスプーンが……。
島さんが、ニコニコしながら私の口元にカレーライスを差し出しています。…これは、…ええと…… 食べなさい、ということ……?
「いつまで経っても食べようとしないんだから」
ほら、口開けて。
……ええと、あの…。
ぱく。
「どう?」
私の口から戻って来たスプーンで、島さんも一口、自分のお皿から食べました…「あ、やっぱり甘いや」と独り言…。
えっ。
……うそ。
「……美味しい」
ああ、なんということでしょう……。
この食べ物は。
…私の故郷の果物の味にそっくり。その懐かしさに、うっかり目頭がジンとしてしまいました。
「…く…果物……?」
「はい…!!」
島さんは(どうしよう…)という顔をしていたみたいですが、その時の私にはその彼の顔は目に入らず。よそって頂いたカレーを全部、島さんよりも早く平らげてしまったんですね……。
「まあ、何にしろ君の気に入って良かったよ」
私がカレーのお替りをしたので、島さんは本気で笑い出しました。
その果物は、大きかったの?
いいえ? 木の実ですから、このくらい。
クルミくらいの大きさ?
…はい。
で、殼を割ると…
ええ、こういう果実がとろ〜り、って出てくるんです。匂いはちょっと違いますけど、味はそっくり……!
「……………」
「ここに、甘いゼリービーンズをたくさん入れると、きっと、もっとそっくりになります」
「…え"」
「それを少し冷まして…、そうしたらもっと」
「………」
島さんがスプーンを落しそうになりました。
どうなさったのかしら…?
「そうだわ!今度、作って差し上げます!」
「いっ?」
「このカレーを冷まして、甘いゼリービーンズをたっぷり刻んで入れるんです。…ああ、懐かしいわ……」
想像すると、とっても楽しくなってきました。島さん、あなたにも食べて欲しい。…私の故郷の食べ物の味、知って欲しいわ……
島さんの目元が、ちょっとピクピクしています。
「えっ、いや、あの…」
「…?」
金曜日は、カレーライス。
島さん?
今度の金曜日には、私が作りますね!
——私の故郷の味を、愛を込めて…!
<多分、おしまい。>
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<あとがき>
…………想像しただけで、うえ〜〜〜〜〜〜〜。
甘口のカレーの中に、ゼリービーンズのドロドロが。しかも、室温。
島くん〜、「命がけでアナタを愛してくれる」テレサちゃんですよ。
アナタも命がけで、彼女の手料理に付き合わなくちゃ〜(笑)。
しかし、テレサの珍料理。
いいのかなあ、こんなレパートリーばっかりで。
ちなみに、今まで我がサイトで登場したのは、
● 酢豚のチョコレート和え(コチラ)←ちょっと長いです。お笑い。最後の方に出て来るw
● ゼリービーンズカレー(このお話)
おえええ。
次は何だろう……… (爆)
金曜日がカレーっていうのは、日本海軍発祥の伝統らしいのですが、今でも海上自衛隊の艦船では船ごとに名物カレーがあるそうですね。ヤマトクルーも多分に漏れず、金曜日のカレーを楽しみにしてる、とかいうのだったら楽しいな、って思って。
島も、まあ平均的にカレーが好きらしい、ってのはERIが勝手にでっち上げたものですが、ヤマトで航海中の食べ物がマズかったら、士気にかかわりますよね(w)。それだけに、カレーやらハンバーグやらラーメンやらの、日本人のホーム食(子どもメニューか?)は「レストラン・ヤマト」のメニューにもあったんじゃなかろうか、と。「lll」で土門が演習中に配ってたのは「おにぎり」でしたけどね。
さて、よく出て来る「テレサが料理下手だと言うネタ」の出所ですが…
これしか考えられないんだけど、「ヤマト2」15話の、彼女が古代たちに出した「おもてなし」のテーブルメニューから。
果物を、切って並べただけ(もしくはただ皿に盛って出しただけ)。
自然の状態でそのまま出した、みたいな感じ……しかも、その果物の見た目がどれもスゴイ。イモ虫みたいなのや、幾何学模様にボコッと取れるスイカ?メロン?っぽいモノ。でも、斉藤クンは「うめえ」って喜んで食べてましたね。なんといいますか、あの果物をテレサが食べてる図が思い浮かばない…彼女の見た目に全然そぐわない(w)。そのくらい、ある意味グロイ感じの食べ物だったんだよな(w)。
ユキが料理下手であろうことは、これは…例のコーヒーの件から、であります。が。古代が料理できないんじゃないか、っていうネタの出所は、正直言ってありません(爆)。島が家事の得意な男だ、なんて言うネタもどっこにもナイ(誰ですか、ゴキブリ亭主とか言ってる人は!?)。いやもしかしたら、古代クンだってゴキブ…じゃない、お料理上手なのかもしれないぞ(軍隊では自分の糧食は自分で、が鉄則ですしね、身の回りのことは自分で出来て当たり前、ですから)。
というわけで、来週の金曜日は覚悟してね〜、島くん(爆)!
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