RESOLUTION ll 第3章(1)

 さて皆様お久しブリです。
 この<RESOLUTION>テレサと島がいる世界での『復活篇』。
 ほぼ「宇宙戦艦ヤマト/復活篇」本編の展開と同じように話は進んでおります。

 この第3章、『復活篇』映画本編の方では、ヤマトの古代がゴルイと敬礼を交わし、一路アマールへと赴いた所…に相当しますが、このラノベでは古代はまだゴルイさんとは会っておらず(w)。
 こちらでは、ゴルイ将軍に会い、そして武人同士として認め合ったのはスーパーアンドロメダlll<サラトガ>で戦った古代雪艦長、ってことになっちょります。雪は行方不明にはならず、あの襲撃現場からワープで逃れた先でゴルイ艦隊に救助されています…

 ともあれ、ヤマトは第一次移民船団の襲撃現場からアマールへ。移民計画本部長の島次郎と共に、古代が女王イリヤとの会見を行う所です………

 



*****************************************

(1)


「アマール星大気圏突入、10秒前!」
 桜井がそう言いながら注意深くヤマトの操縦桿を傾ける。
 

 ——懐かしいな、アマール。

 
 移民局の特使として島次郎と共に自分が初めてこの星に来たのは、もう5年近く前のことになる……

 背後にいる次郎を振り返りたいのを堪え、桜井は慎重に降下を続けた。
「逆噴射制動、80%」
「大気圏内航行用主翼展開」
「…着陸用ビーコン波をキャッチしました。操縦班長、誘導に従ってください」
 地球の大気圏とほぼ同じ厚みを持つ空気の層が、船体と透明度98%の硬化テクタイト製キャノピーを数秒赤く焼いたのち。

 ヤマトはアマールの大気圏内に進入した。


 ——眼下に、美しい緑の大陸が、海が拓けていく。

「…うわぁ…奇麗な海…!!」
 折原が思わず声を上げる。だがすぐに…この絶景を見ることのできなかった大勢の市民たちのことを誰もが思い出した。……美しいこの星の景色に心を奪われながらも、同時に苦い思いが皆の心を駆け抜ける——

 


 はるかに広がるエメラルドグリーンの遠浅の海。それに面した緑豊かな陸地の一画に、天から降り注いだ雨の柱のようにも見える、高く白い塔がひとつ。その塔を中心に、素朴な印象の石造りの建物が無数に建ち並び、扇状の都市を形作っていた。都市のはるか向こうにはさらに青々とした緑の地平が、そしてかなたには衛星・プラトーが、まるで緑の双子星のようにその球面を覗かせている……


「…島君、あの塔が王宮か?」
 古代がそそり立つような白い塔に興味を引かれてそう言った。しかし、見渡せば同じような塔が地平のかなたにいくつも聳えている。
「いえ、あれは鉱山なのだそうです。…大地の恵みである鉱脈を表すモニュメント、…オベリスクのようなものだとか」
「…オベリスク」
「あの、ひと際大きなオベリスクの手前にある建物が王宮です」

 拡大パネルを操作して次郎が示したのは、塔の手前にある石造りの建造物だった。

「資源豊かな星です。惑星内部の資源の量は、彼らにとってもまだ未知数だとか…」
「………」

 大地に多大な資源を眠らせた、未開発の星… 彼らと共に生きることは、確かに夢広がる未来を示唆しているように見えた。次郎たち最初の移民外交団が、この星に地球の未来を託そうと考えたのは無理からぬことだろう、と古代も感じる……

 中西がアマールの観測所からの連絡を受ける。
「艦長、着陸場所の指示が出ました。前方の海面……彼らは港、と呼んでいますが、岸辺から100メートルほどの地点に、適度な水深の棚があります。そこに降りるようにとのことです」
「よし桜井、指示に従って着水させてくれ。島君、大村さん、我々は一足先に王宮に向かいましょう」
「はい」
 古代と大村が腰を上げた。一刻も早くこの星の女王、イリヤに接見しなくてはならないからである。

 次郎は、通信機の携帯用小型端末を本体から外し、背負う準備をした。中西が興味深そうにこちらを見ている。……例の、地球からここまで通信波がダイレクトオープンしている新型通信機だ。
(俺の留守に、本体を調べてくれてかまわんぜ)
 次郎は中西に向かってニヤリとし、肩を竦めてみせた。中西がそれを見てぷいと顔を背ける……
 中西君。道中ずっと、イガグリ頭のキミがこの通信装置に興味津々だったことを、俺が気づかなかったとでも…?

 ただ、彼がこの通信システムの本体を例え分解して調べたとしても、一体どういう仕組みでこの通信波が飛んで来ているのかは、分からないに違いない。地球からヤマトまでの実に2万7千光年もの距離である…受信も送信も、防衛軍の使用する通常のスーパータキオン変調波と同じものだが、まさかその増幅装置が『人間』だなんて、中西にはひっくり返っても分からないだろう……

(なにせ、この仕組みはオレにも真田さんにも完全には解明出来ないシロモノだ)

 これは、次郎自身と古代の息子・守とに向かって姪のみゆきが直接飛ばしているテレパスをテレサが中継し、調節して送受信しているいわば<ESP通信機>なのだから…。
 だが、次郎は時折心配になる。
 兄貴がついているから大丈夫だとは思うが、テレサは無理をしていないだろうか。疲れていないだろうか…、ちゃんと休んでいるのだろうか、と。

 携帯用端末の受信状態を確認。みゆきのテレパスを正常にキャッチしていることを示すランプが点灯するのを目視して、次郎は座席から立ち上がった。

 




            *         *        *

 


 王宮からの迎えの連絡艇が、3人を水上から王宮の中庭へと運ぶ。

「……なんと…まあ」

 大村は絶句し通しである。
 女王の使いの衛兵たちが操る連絡艇は、一見してエア・カーのようでもあるが、よくよく観察すると反重力を使った動力車なのだった。しかし、アマール首都の街中に見かけた車には、車輪のようなものがついているものもある。素朴な石造りの建物が立ち並ぶ街は高度な科学力を包含しているようには見えないが、地位の高い市民の所有するものはその限りではないらしい。

 高度な科学力と素朴な自然が共生している様は不思議な印象を与えた。

 途中連絡艇の中から見かけた景色は、まるで地球の中東、…そう、イスラエルやヨルダン、シリアやトルコ…などを思わせるような街並。時空がそれらの都市と、どこかで繋がっているのではないか?と疑いたくなるほどだ。

 そしてなにより、空気の清涼なこと…緑の豊かなこと。ついで今、3人の目の前に姿を現しつつある女王の王宮も、太古の中東の、有名な建築物を彷彿とさせた。


「ほら、…あれですよ、あれに似てる」
 大村は首をひねってその『名前』を思い出そうとしている。ほら、大昔…トルコかどっかにあった、なんでしたっけか…有名な建物、霊廟だったかな?
「……モスク、ですか?」
 次郎が苦笑した。「確かに感じがよく似てますよね。ブルーモスクとか、タージ・マハルとかにね」
「そうそう、それそれ、なんとかマハル。…いやあ、見事なもんですなあ」
 大村はぽんと手を打って、そのまま宮殿に見惚れた。確かに、建物の周囲にオベリスク様の尖塔が数本立っていて、中心に宮殿がある様はモスクのようにも見える。

 次郎はこれから謁見する女王にどのように話を切り出したものかと思案していたが、同行している衛兵の一人がこちらに向かって何事かと聞きたそうにしているので仕方なく、アマールの言葉で簡単に説明してみせた… この美しい街並や建物に、我々はとても感動しています、と。

 



 荘厳な大門をくぐると、そこは王宮の中庭だった。
 警備の薄さに、古代が思わず呟く。

「……門は常に民衆に向けて開け放たれているんですね」
「開かれた官邸、ってやつかな」
「庶民に慕われているんですよ、女王は」
 以前に来た時と、ほとんど変わっていない… そう思いながら、次郎は古代と大村の先に立って連絡艇を降り、衛兵のあとについて正面の大きな門扉をくぐる。その奥に連なる美しい廊下のはるか先に、謁見の間があるはずだった。

 広々とした廊下に、美しい戦装束を纏った衛兵たちがずらりと並び、捧げ銃をして3人を出迎えた。兵士の装束も中東の民族衣装のようである。鎧に胸当て、足元は裸足にグラディエーターだ。ただし、防具に使われている金属はどう見ても、金かプラチナのような気がするのだった。



 だが、3人が通されたのは謁見の間ではなかった。

「どうぞこちらでお待ち下さい」
 侍従にそう言われて招き入れられたのは、幾何学模様の美しい、重厚な絨毯が敷き詰められた瀟洒な部屋。開け放たれた大きな窓の外には、街を一望できる広いバルコニーがあった。

「…ここ、女王の間ですよ」
 イリヤ女王のプライベートルームである。

 豪華な室内装飾に目を奪われている古代と大村に、次郎は言った。何故そんなことを知っているのか、と言うと。…かつて、自分ひとりが女王に招かれたのもこの部屋だったからである……

 
 しばらくして、靴音も立てずに一人で部屋に入ってきた女王の表情かおは、心なしか青ざめているように見えた。



「……ようこそ、ヤマトのみなさん」
 色とりどりの宝石が散りばめられた、大振りな金のティアラが揺れる。黄金色のドレスを纏った大輪の花のような女王イリヤは優美に膝を屈めたが、3人の中に次郎の姿を見て悲し気に表情を曇らせた……

 古代が制帽を取り、一歩進み出て女王に頭を下げる。
「…ヤマト艦長、古代進です。初めまして、…イリヤ女王」
「副長の大村です」
 ゴージャスな容貌の女王に見惚れていた大村も古代に倣ってペコリとお辞儀をする。

 次いで次郎が口を開こうとした途端。
 イリヤが崩れるように次郎の前まで歩み寄った。「…島さん」

 古代と大村が一瞬、固まる…… え。

「……移民船団本部長、島です」
 慇懃にそう答えた次郎に、女王は小さく「ああ…」と苦しそうな溜め息を漏らしたように見えた。

 

(…どうしたんですかね、女王様は)
(シッ…)
 大村のヒソヒソ声を、古代がたしなめた。次郎を見つめたまま女王は黙り込んでしまい。…対する次郎も言葉を選んでいるのか黙ったままだ。

「……古代艦長」
 気まずい沈黙を破り、女王が古代を振り返った。
「…移民船団、お気の毒でした。わたくし…なんと、…申し上げればいいのか」
「イリヤ女王…、そのことで是非ともお聞きしなくてはならないことが」
 古代はそこまで言いかけたが、女王はもう彼を見ていなかった。
 イリヤは次郎に向き直り、再度悲痛な溜め息を吐いてうなだれたのである。
 次郎の方も、その女王の態度に少しばかりたじろいでいた。困惑した視線を古代に向ける。だが、意を決して口火を切った…

「女王。地球の移民船団の被害は、甚大でした。3億人近い市民が亡くなり…軍艦の被害も150隻を越えます」
「……ひとつの国が滅びたも同然の数ですね…」
 目を伏せて、イリヤは呟いた。
「我々が襲撃現場に到着した時は、すでに船団は散り散りになっていました。…救助できたのはたった62名だけです」
 淡々とそう事実だけを報告する次郎の声音は冷たい。
 イリヤは苦し気に右手を額に押し当て、呻くように言った……
「…こんなことになるとは… 思わなかったのです」


 古代と大村が、顔を見合わせる。
 こんなことになるとは思わなかった……?


 次郎が古代を見た。

 やはり女王は何かを知っている。
 <俺が訊くべきか?><それとも私が…?>……古代と次郎の視線の間で、その問いが行き交った。 だが、次郎が先に口を開く。

「女王。あなたは……地球からの移民船団を襲った宇宙軍に…心当たりがあるのですね?」
 その次郎の声には、古代がハッとするほど冷たい響きが含まれていた。前置きも何もなく、咎めだてするようなその口調に、イリヤが肩を震わせる。

(……次郎くん…?)

 あの、と話しかけようとした古代を急に遮ると、女王は懇願するように振り返った……
「わたくしは…島さんにお話しなくてはならないことがあります。いらして頂いたばかりで申し訳ないのですが… 古代さんと…そちらの方は、外で待っていて頂けませんか」
「えっ」

 


 その有無を言わせぬ静かな気迫に、押されるようにして部屋の外の通路に出された古代と大村だったのだが…。

「……どうしたんですかね、ありゃ…」
「僕にもさっぱり…」
 任せてください、というような次郎の表情に、何も訊けぬまま出てきてしまったが。
(……一体…どういうことなんだ)
 

 重厚な彫刻の施された扉の中で、今、何が語られているのだろう…?

 

 天井の高い大理石の通路に成す術もなく佇む古代と大村を、柱の向こうから一の将軍パスカルがじっと見ていた。

 


**********************************************